「良いものです。有名なショップで買ったし、そこそこしましたから」と仰りたい気持ちは分かります。分かりますが、ダイヤモンドの場合そうとは限りません。ダイヤモンドの価格についてにも書きましたが、ダイヤモンドの価格は品質とコストによって決まります。特に流通による価格の上乗せが通常のダイヤモンドでは大きく、高かった理由は費用がかかっているという意味かもしれません。
ダイヤモンドの品質を決めるものはグレードです。グレードの高いものが良いものとなります。ダイヤのグレードや価格を云々するのは無粋だという意見もありますが、贈られる方は贈り手以上にグレードにこだわりがあることを忘れてはいけません。ダイヤモンドに対する誤解や思い込み、無関心は思わぬところで事故につながります。一生に何回もあることではないからこそ、今ここでダイヤモンドの品質について理解を深めましょう。
ダイヤモンドの品質を評価するポイントは2つあります。まず、4Cという極めてシンプルでフェアな評価基準があるということ。他の宝石にはありません。次に、鑑定書というグレードが客観的に評価された書面があるということです。4Cについては耳にしたこともあると思いますが、鑑定書についてはほとんど知らないのではないでしょうか。これを読めばあなたも今日から鑑定士です。
ダイヤモンドにはフェアで分かりやすい評価基準がありますが、目の前のダイヤモンドを見てグレードを評価できるのは専門的な訓練を受けた鑑定士だけです。実際には訓練を受けた人であっても観察する環境が整っていなければ正確な鑑定はできないとされています。当然、ダイヤを買おうとしている人もダイヤを贈られる人も普通は見分けがつきません。
鑑定書とはダイヤモンドのグレードを評価することができない普通の方が安心し納得してダイヤモンドを購入できるようにダイヤモンドを分かりやすく評価した書面です。後述するダイヤモンドのグレードを表示し、コピー防止用のホログラムなどが付けられております。鑑定書のないダイヤモンドを評価することは事実上不可能で、販売店のいうことを鵜呑みにするか、時間と労力をかけて信頼性を調べる必要がでてきます。
このような例はダイヤモンド以外にもあります。マンションが適切に建築されているのか、新規上場会社の財務状況がどうなっているのかなど、こういったことも素人には分かりません。そこで専門家が鑑定し、確認し、商品の信頼性と取引の安全を担保しているのです。ダイヤモンドの鑑定書も同じような理由で作られています。特にダイヤモンドはグレードが2段階変わると価格が数万円、数十万円変わってしまうにも関わらず、その違いを購入者は認識できないという商品なのです。
ダイヤモンドを鑑定し鑑定書を発行する「鑑定機関」は、当然ながら、ダイヤモンドを原石から磨き上げた研磨工房でも販売店でもありません。研磨工房や販売店が発行するものでは公正な鑑定内容が期待できないからです。仮に発行されていたとしてもそれは販売を促進するための、例えばラッピングサービスやメッセージカードなどと同列のものでしょう。鑑定機関とは会計監査のように中立で独立した高い倫理観と厳しい組織運営が求められるものなのです。
ここまで言っておきながら申し訳ないのですが、数ある鑑定機関とは公的に認められたものでも法律によって保証されたものでもありません。研磨工房でも販売店でも鑑定書を勝手に発行できるのが現状です。鑑定書とは言わず「保証書」とか「品質確認書」という名前でダイヤモンドの品質を販売店が保障するかのような書面が販売促進目的で発行されたりします。
また、鑑定士という資格も公的で独占的なものではなく、鑑定行為も鑑定書の発行も誰でもできるものなのです。今日から鑑定士と名乗っても何ら咎められることはありませんし、ダイヤを鑑定して鑑定書を作っても違法ではありません。この辺りが医師や弁護士、会計士や不動産鑑定士などと大きく異なるところです。
そこで「どの」鑑定機関による鑑定書なのかが重要になります。上の項目で言おうとしたことは「鑑定書に意味がない」ということではなく、「信頼性の高い鑑定書」であることが重要だということです。信頼性の高い鑑定書がダイヤ選びのキモであり、4Cによるグレードの確認の前に鑑定機関がどこであるのかをご確認ください。
では信頼性の高い鑑定書とはどれでしょうか。こちらのサイトはイスラエルダイヤモンド協会によるダイヤモンド価格表です。Labと書かれた項目が鑑定機関を意味しており、現在33の鑑定機関がリストアップされております。しかし、試していただければ分かるように、実際にはいくつかの主要な鑑定機関以外は、ほとんど価格が表示されません。取引の実績がないということです。活発に売買されている主要なものは以下の3つです。
● GIA
● HRD
● IGI
この中でも最も活発に取引され、ほぼ全てのグレードで取引実績があるのがGIAです。GIAはダイヤモンドの標準的な評価基準である「4C」を開発した鑑定機関であり、世界中で最も信頼された鑑定機関として大きなシェアを得ています。またGIAは鑑定済みの内容をウェブサイトで公開し、鑑定番号(グレーディング番号)とカラット数が分かれば、世界中どこにいてもすぐにダイヤモンドの品質を確認することができるのです。
例えば、海外を旅行中にジュエリーショップでダイヤモンドを買おうとした時、ダイヤのこともお店のことも分からないとします。お店の人は親しげにダイヤモンドの良さを説明してくれるでしょう。しかし不安ですね。こんな時、GIAの鑑定書がついていればグレーディング番号とカラット数からそのダイヤモンドの品質を客観的に確認することができるのです。GIAの鑑定書がついていなければ、「GIAしか興味はないんだ。ゴメン。」といえば済むことです。
また、GIAは2012年に日本にも鑑定用のラボを開設し、鑑定および鑑定書の発行サービスを開始しています。これは日本で中古のダイヤを仕入れ中国で販売しようとする業者が国際的に最も通用力のあるGIAの鑑定書を必要とするからです。GIAが世界中で最も通用力があること端的に物語るできごとですが、日本の鑑定機関にも頑張ってもらいたいところです。
日本にはCGLとAGTという大きな2つの鑑定機関があります。日本国内では信頼性の高い鑑定機関とされていますが、残念ながら日本の鑑定書は日本以外ではほとんど通用しておりません。海外のダイヤモンド取引所でサプライヤーが扱っている鑑定書はGIAやHRD、IGIなどになり、残念ながら日本の鑑定書は出回っておりません。ダイヤモンドは素材として普遍の価値を持つものなので日本でしかその価値を認められないというのは非常に残念なことです。日本は海外においてその勤勉性や正直さなどによって非常に高い信頼性を得ています。日本の鑑定機関もぜひ日本国内だけにとどまることなく、世界で通用し日本人のダイヤモンド取引を支える存在として拡大して欲しいと考えております。
最後に、ダイヤモンドとインターネットを鑑定書という観点から見てみます。ダイヤモンドはオンラインでは売れないと言われた商品の一つです。ダイヤモンドのような高価なものは実際の店舗を繰り返し訪問し、現物を確認し、心から納得して購入すべきものだと考えられておりました。
しかし、靴やスーツなどと異なり、ダイヤモンドの場合は現物を目にしたところで見分けがつくものではありません。ダイヤモンドの現物を見せるのは買う気を起こさせるためです。ダイヤモンドは目にすればその輝きの美しさから「買ってもいいな」と思わせる力があります。そのため実際に現物をみせることで購入にいたる心の壁を取り除こうという考えが本来の意図になります。
ダイヤモンドには信頼のおける第三者による客観的な鑑定書というものが存在し、また鑑定内容を鑑定機関のウェブサイトでいつでも確認することができます。ダイヤモンドとは最もインターネットに適した商品であるといえるでしょう。
ここからは実際にダイヤモンドのグレードについて説明をいたします。
ダイヤモンドは4Cと呼ばれる4つの基準で評価されます。どこかで聞いたことがあるかもしれませんね。4Cとはカラット(Carat)、カラー(Color)、クラリティ(Clarity)、カット(Cut)の頭文字をとったもので、ダイヤモンドの基本性能を表しています。この基準は非常に単純な尺度でできており、つまり大きさは大きければ良く、色は薄ければ良く、内包物は少なければ良く、プロポーションは均整が取れていればよいとなっています。この評価方法は後述するように「測定可能」なものであるため、ダイヤモンドが「美観」や「好み」で扱われる商品であるにもかかわらず、他の商品と比べて非常に分かりやすくフェアにできています。基本的にこの評価が高いほど品質が高くなり、価値が上がり価格も上がるようになっています。
カラーとは色の濃さで何色であるかではありません。ピンク色や緑色のカラーダイヤモンドもありますがこれらは「ファンシーカラー」という別の扱いになります。カラーグレードは色が薄いほど高品質とされています。カラーグレードについての細かな説明はこちらを参照してください。カラーグレードメーターで大まかな色合いの違いをご確認いただけます。
カラーについてはダイヤモンド自体の色もそうですが、ジュエリーにしたときの金属部分の色や服装、ダイヤを照らす光の種類によって見え方が異なります。また、実際のグレーディングは特殊な環境でマスターストーンと呼ばれる基準になる石を見ながら専門の人間が判定するものなので日常の色々な環境で普通の人が見ただけでは良く分かりません。
クラリティとはダイヤモンドの内部に含まれた内包物(インクルージョン)や表面の傷(ブレミッシュ)の評価です。実際、グレーディングにおいては表面の傷は考慮されません。内包物の程度によってグレードが決まります。いわゆる高品質なダイヤモンドというとこのグレードを上げることが多いです。また、カットの項目で説明をしていますが、ダイヤモンドの輝きや明るさ、七色の分光はダイヤモンド内の光の動きで作られます。内包物がある場合この動きが阻害され光のパフォーマンスを落とすことになります。
クラリティについての細かな説明はこちらを参照していただくとして、気づかれたと思いますが、要するにほとんど「目に見えない」わけです。また、基準も「訓練をされた人が見て」とか「一般の人が見て」というように微妙であるため、鑑定機関の違いによって鑑定結果が異なるのもこの部分です。
カットはダイヤモンドの総合的なプロポーションを評価したものです。ダイヤモンドの輝きが最も発揮されるためには光を上手に反射させたり、プリズムのように光を分散させて七色に輝かせたりする必要があります。そのためのバランスや均整がカットグレードなのです。(カットグレードの詳細はこちらを参考に)
カットグレードに関してもそうですが、実際にダイヤモンドを見てみるとわかるのかといえば、2段階ほどグレードが変わらないと、判別は難しくなります。
カラットはダイヤモンドの重さを評価したものです。本当は大きさを表すものではないのですが、大きさの意味で使われることが多いようです。グレーディングの4Cの中で唯一数値化されており最もフェアな評価軸であるといえるでしょう。(カラットについての詳細はこちらをご確認)
カラットは大きければ確かに良いのですが、大きくなると他のグレードのアラが目立ってくるという点に注意が必要です。