ダイヤモンドの輝きは3つの要素でできています。「明るさ(Brightness」「七色の光(Fire / Dispersion」「きらめき(scintillation)」です。この3つの要素は光の特性とダイヤモンドの性質によって生み出され、この要素を最大化させるためにダイヤモンドのプロポーションが考えだされました。
Brightnessとはダイヤモンドの明るさのことです。明るさの基となる光は2つあり、ダイヤモンドの表面で反射した光と、ダイヤモンドの内部に一度入った後内部で反射して再び外に出てきた光です。
表面で反射した光は『ダイヤモンド光沢』と呼ばれる強い照りになります。一方、一般的な宝石の光はガラス光沢よばれています。ダイヤモンドの表面に垂直な光を当てたとき、反射する光は17%あり、ガラスの場合には4%程度となります。ダイヤモンドが強い光沢を発する理由は、「高い屈折率」と「優れた研磨性」によります。
ダイヤモンドの内部に入った光は下部の斜面で反射し向かいの斜面で再度反射した後、上面から外に出ます。下部が浅いと一回も反射することなく底から抜けてしまい、逆に深いと一度反射した光が対面する斜面から外にでてしまいます。どちらの場合も光が漏れ出るため明るさが減少することになります。最も光を反射させるためには下部の三角が適切な深さになっている必要があります。
Fireとはダイヤモンドが出す七色の光のことです。一般用語ではdispersionと言い、日本語では「分散」と言います。虹やプリズムと同じように光が色ごとに分離する現象になります。分散は光がダイヤモンドに入るときやダイヤモンドから出るときに屈折することで発生します。屈折する大きさは色によってことなり、一般的に青い光は赤い光に較べて屈折率が大きくなっています。
七色の光が鮮明に見えるためには、青い光の屈折率と赤い光の屈折率に差がある必要があります。ダイヤモンドの場合この差が0.044であり他の鉱物に較べて高い値になっています。また、光が大きく分散する要因はダイヤモンドの特性だけではありません。光の当たり方やダイヤモンドのプロポーションによっても決まります。光の当たり方は光の入射角度および屈折角度に影響し、プロポーションは光の進行距離に関わってきます。
光の入射角度がダイヤモンドの面に対して水平方向に傾いているほど屈折は大きくなり、結果的に分散も大きくなります。光の進行距離については長くなるほど分散が大きくなります。屈折によって進行方向がずれた光は進むにつれてがずれ幅が大きくなるためです。ダイヤモンドに入った光は内部で反射をするごとに進行距離が長くなります。ダイヤモンドのプロポーションが光を内部で反射させる条件を満たしている場合ファイアはより強く鮮明に表れます。
シンティレーションとはダイヤモンドのきらめき模様のことです。ファセットというダイヤモンドの小さな研磨面がそれぞれ光を反射するために見えるものです。強く光を反射してキラキラと輝く部分を「スパークル」と呼び、全体の万華鏡のような明暗模様を「パターン」と呼びます。ダイヤモンドを動かしたり目線を変えることできらめきや明暗模様が動き変わることが特徴です。
シンティレーションはダイヤモンドを原石からカッティングするときにどのような意図でカットされたのかを表すものです。魅力的なカッティングをされたダイヤモンドはスパークルが均質に見え、パターン模様のコントラストがはっきりしています。一方、ダイヤモンドの重さ(カラット)を残そうとしてプロポーションを崩した場合、極端に暗いシンティレーションになることもあります。
あまり良くない典型的なパターンとして知られているのは、フィッシュアイ(スケ石)とダークセンター(ゴロ石)です。フィッシュアイはダイヤモンドの深さが浅いため裏側がスケてしまい模様が鈍いものをいいます。また、真上から見たときにダイヤモンドの中に丸い円が見えますが、これはガードルというダイヤモンドの一番幅の広い円周部分が反射によって写りこんでいるためです。ダークセンターとは反対にダイヤモンドが深すぎる場合に起こります。ダイヤモンドに入った光が適切に反射してこないため中央部分が暗くなったパターンです。
光は密度の違う物の境界で折れ曲がります。これを屈折と呼びます。光がこの境界に当たったときの角度を入射角と言い、境界面から離れて行くときの角度を屈折角と言います。どちらも境界面からの垂直に対しての傾きで表します。
光の屈折は光のスピードが透過する物質の密度によって遅くなるために起こります。密度の低い空気から密度の高いダイヤモンドに光が進む場合、光のスピードは遅くなり垂直方向に進路を変えます。逆に、ダイヤモンドから空気中に出てくる場合には光のスピードが早くなり、境界面の水平方向に進路を変えます。
この折れ曲がり具合をを「屈折率」と呼び、英語のRefractive Indexから「RI***」と数値で表します。屈折率が大きいほど光は大きく折れ曲がり小さいと折れ曲がりも小さくなります。ダイヤモンドの屈折率は2.417であり、天然鉱物の中でも最大クラスになっています。ちなみに、ダイヤモンドの模造品として知られているキュービックジルコニア(CZ)は2.150であり、モワッサナイトは2.670となっています。
この屈折という現象はダイヤモンドの輝きに非常に大きな影響を与えます。特にダイヤモンドから光が出て行くときこの屈折率の大きさが意味を持ってくるのです。
ダイヤモンドから光が出て行くとき光は境界面の水平方向に折れ曲がります。境界面への入射角が大きくなるほど、つまり垂直ではなく斜めに当たるほど、出て行く光は水平に近づきます。そしてある大きさを超えると出て行く光は境界面に水平になり、すなわち外に出ていくことができない状況になるのです。この状況を「全反射」と呼び、全反射になる入射角を「臨界角」と呼びます。
分かりやすい説明として、「三角錐のとんがりコーン」が使われます。光がダイヤモンドの中で境界面に当たるとき、そこには目に見えない「とんがりコーン」が先端を下にして境界面からはえているとします。もし光がとんがりコーンの開いた口から入ったのであれば境界面に当たった後、屈折しながら外に出ていきます。もし、とんがりコーンの外側から境界面に当たった場合は全反射して再びダイヤモンドの中に跳ね返ります。
とんがりコーンのトンガリ具合はその物質の臨界角を表していて、臨界角が小さいほどとんがりコーンもとんがります。つまり、屈折率が高くなるほど臨界角は小さくなり、結果、とんがりコーンはとんがって口は狭くなるということです。になります。とんがりコーンの口が広いと光は外に出やすく、口が狭いと外に出にくくなります。ダイヤモンドは屈折率が高いため、とんがりコーンの口が狭く光を外に逃がしにくいということになります。
ブライトネスの部分でも説明しましたが、ダイヤモンドの上面から入った光はダイヤモンドの下部の斜面で反射をします。このとき斜面が緩すぎるととんがりコーンの口が真上方向に向くため光がとんがりコーンに入り外に出ていってしまいます。逆に斜面が急すぎると一度目は反射をするのですが、向かいの斜面のとんがりコーンに入ってしまい同じく光は外に漏れることになります。エクセレントカットとはとんがりコーンに光が入らないよう計算されたプロポーションなのです。
ちなみに、ダイヤモンド以外の鉱物は屈折率が低いためとんがりコーンの口幅が大きくなっています。これは光が外に漏れやすいということです。そのため、カットする際に下部の斜面をもったりとおわん形にすることで光を漏らさない工夫をしているのです。